インバウンド対策はかなり奥深いものです。外国語対応と、集客戦略をだけでも一苦労ですが、食文化が異なるために、通常の業務では思いもよらぬ課題が山積みです。本編では弊社がインバウンド対策する中でぶち当たってきた壁を赤裸々に公開。皆様が同じ課題をスムーズに乗り越えられるよう、具体的な対策についても紹介します。
インバウンド対策で成果をあげられない店の共通点
そもそも「インバウンド対策」という広義な括り方がナンセンス
インバウンドとは訪日外国人をターゲットにしたマーケティング全般を指す広義な言葉です。しかし”外国人”といっても190ヶ国以上の存在する国から来日される多種多様な方々を一括りにした呼称に過ぎません。だから「インバウンド」などという言葉でひと括りにするのはナンセンス。ターゲットを絞り込み、合理的な経営戦略を組み立てることが必要となります。
日本を外国とみる思考型で演習し、外国を細かく分析する力を身につけよう
日本から”インバウンド ”(つまり日本以外の全ての国)を対策すると考えると、前項までで挙げてきたような判断ミスを生みやすいのです。そこで飲食店経営のインバウンド対策視点を鍛えるフレームワークは「チリの飲食店オーナーになったつもりで、日本人マーケティングを考える」こと。
※「チリ」は任意の外国に置き換えていただいてかまいませんが、なるべく日本人について理解が深くない国を想定しましょう。
彼らにとってみれば、数多くあるアジアの国の1つが日本に過ぎません。しかし日本人に向けてマーケティングするには、他のアジアの国々の食文化と明確に区別して日本人の食の傾向を知る必要があります。また飲食店を探すために利用するツールがインスタグラムなのか、食べログなのか、はたまたGoogleなのか、年齢と性別で区分けして考えるもの重要でしょう。
彼らにとっては日本人も”インバウンド”ですが、英語メニューでは嫌がるし、漢字は読めるのに中国語とは違う。しかし研究し尽くした結果、”日本民族”の”都市部に住む”、“20代”の”女性”に向けて”インスタグラム”で”見た目がやたら可愛いスイーツ”を情報発信することに辿りつければ、きっと対日本マーケティングは成功するに違いありません。
この視点に立ち返り、”北イタリア”の”都市に住む”の”40代”の”男性”はどんな料理を食べたいか、想像してみる。このフレームワークを果てしなく繰り返した先に、適切なマーケティングの解を得ることができます。しかし以上のことを踏まえてインバウンド対策を実践するのは困難です。そこでインバウンド対策入門編として、すぐに実践できる6つのポイントを書き出しましたのでご覧ください。
インバウンド対策①:ターゲット選定
課題:ターゲットを細かく絞れていない
日本同様に1国家1民族(Monoethnicity)の国の方が珍しいことも理解しておかなければいけません。例えば「アメリカ人 = 白人 = 肉が好き」のように国単位のものさしで判断していませんか。また無意識にアジアはこう、欧米はこう、とエリア単位で決めつけていませんか。同じ国、同じエリアでも、年齢や性別、生活スタイルや民族が違えば、思考も行動パターンも様々です。当然に食文化も異なります。多民族、多文化への理解を持つことから始めましょう
解決:自社のメニュー、立地、競合の3つから複合的に判断してターゲット選定する
観光客の「数」で判断すると広島なら欧米、札幌ならアジアなど安易に選定してしまいます。しかし自社の提供メニューを好むターゲット(後述)にアプローチすることが肝心で、それに加えて立地と競合も看過できません。例えば東京や京都では多くのアジア、欧米人を目にしますが、インバウンド対策の競争が激化しているためマーケティングを展開するのは非常に困難です。
しかしコーシャやハラルの対応なら競合は極めて少ないのが現状です。観光客数は十分であるため”闘わずして勝つ”成功率の高いマーケティングを展開できるでしょう。
コーシャはユダヤ教の食文化、ハラルはイスラーム教の食文化です。
インバウンド対策②:食の好みを見極める
課題:国や文化によって
国によって食の好みは様々です。例を挙げると
中国人:冷菜や冷たい飲み物を好まない
欧米人:ネバネバした物や肉の内臓、生物は好まない
枚挙に遑がありませんが、提供側の都合を押しつけずお客様のニーズを捉えるべきであるのは、対日本人であろうと対インバウンド観光客であろうとビジネスの基本として変わらないのです。
インバウンド対策③:調理器具
前項と重複する内容ですが、重要であるため再度取り上げます。
食事制限
食材
割合が多い話を例にあげると、ベジタリアン、ヴィーガン、グルテンフリーの方が海外には非常に多いです。ベジタリアンは野菜・魚中心の食生活、ヴィーガンは野菜・魚中心の食生活に加え動物性食品を好まないため牛乳や卵も口にしません。グルテンフリーは、小麦を一切使わない食品のことです。特に既製品の調味料には注意が必要です。
ベジタリアンというと欧米のイメージが強いかもしれませんが、日本や中国でもベジタリアンは4%以上存在します。食事は1人でするものではありませんから、同行のお連れさまも含め全ての方に安心して楽しんでいただけるよう、プロとしての配慮を忘れないようにしたいものです。
イスラム教徒(ムスリム)はイスラム法により生活全般に戒律があり、豚肉と酒は全面的に禁止されています。それに伴って豚肉を調理した器具でさえも使わないのが基本です。
また欧米によくいる小麦アレルギーの方も重症な方は、「小麦を料理した調理器具で料理したものを食べると発症するから避けて欲しい」と言われる方も稀にいます。お客様に言われずとも、揚げ油を一緒にしないのは安全な食を提供する“食品衛生責任者”として当然の使命でしょう。普段日本人を相手にしていてアレルギーに口うるさく言われないのが”当たり前”ではなく、食のプロとして知識、技術を高める機会として学び直したいところです。
まだまだあるのですが、あまり詳しく書くと「インバウンド 対策めんどくさい…」となりかねないので、ほどほどにしておきます(笑)
インバウンド対策④:集客
課題:集客ツールにアプローチできない
日本人にとっては食べログが重要ですが、それらはインバウンド 旅行者にとってはなんら意味を持ちません。例えば欧米なら”Tripadvisor”や、中国では”大衆点评”や”微博”の利用者が圧倒的です。しかし現場をみているとそれ以外にもかなり細々したルートからお客様は集まってきます。
詳しく書きたいところですが、国ごとに本当に多種多様ですのでこちらでは軽く触れておくだけにとどめます。しかし比較的国に関係なく共通して取り組むべきはGoogleと、宿泊施設への認知ですのでこの2つから取り組んでしておくといいでしょう。
インバウンド対策⑤:言語の壁
課題:外国語対応が大変
自分が勉強して話せるようになるのに越したことはありません。しかし大人が新しい言語を覚えるのにかかるコスト(時間と労力)は、飲食店の売上に見合うものではありません。外国語を話すだけなら言語力のあるスタッフを雇うのはかなり簡単ですし、写真多い翻訳メニューを準備するなどできることは沢山あります。
解決策:可能な限りのインターフェイスをIT化
翻訳されたメニューがあればお客様は理解できます。しかしそれを日本人スタッフが理解できなくて読み間違いや聞き間違い、解読に時間がかかったりとオペレーションに不備がでます。また、アレルギーを持った方も必ず来店されるので、解決策としてメニュー番号を振ったり、アレルギー食材について表記すると注文がスムーズです。それよりも飲食店のマネジメント層にとって大切なことは「愛想」。インバウンド のお客様が来られた時、対日本人「以上」のおもてなしをマックスの笑顔でできるかどうか。言葉より大切なもの、に注力している飲食店が良い結果を得られています。
一通りゴハンを食べ終わったタイミングのお客様に”Can I get a bill?” (チェックお願いします) と言われて、”ビール”を持っていったという話、かなりよく聞きます。笑
インバウンド対策⑥:クレジットカード
課題1:クレジットカード決済対応と手数料負担
先進国の中でまだ現金主義の国は日本だけ(クレジットカード保有率68%、利用率15%)。ですからインバウンド観光客のほとんどが多額の現金を持ち歩いていません。ATMで現金を下ろすことは可能ですが、見知らぬ地のATMで下ろすのは仕組みがわからず疲れるものです。
解決策1.クレジットカード払いはもちろん、QR決済に対応すべし
楽天ペイ、Airペイなど店舗により様々なツールを導入しますが、弊社が1番いいと感じるのはTakemepayです。中国の支付宝や微信支付に対応する他、Apple Pay, Google Pay, Pay Palなどにも対応しつつ、QR読み取りによるオンライン払いであることが魅力だと感じました。
ピンとくる方に向けて追記。オンライン払いでURL生成できると、ホームページを持っている企業などは応用性が高いです。
課題2.決済手数料の負担が膨大になる
日本人客ばかりだとクレジットカードを利用する絶対数がさほど多くないため気にならないのですが、インバウンド観光客は十中八九カード払いであるため、手数料負担額が積み重なるとかなりの額になります。
というのも日本のクレジットカード(3.24~3.75%)ほど手数料の相場が高い国はそうそうないのです。ほとんどの国では2%未満で、中国は0.5%前後。オーストラリアでは0.23%という数字を見かけたこともあります。
解決策2.
現金を持っている場合は現金払いに協力いただけるよう、何らかの施策をする必要があります。ただし注意は
まとめ:日本のインバウンド対策はまだまだ未開拓領域
美味しいものをスムーズにお届けするという通常業務だけではインバウンド対策はできないことが、あらゆる角度からわかりました。困難なこと、面倒に感じることがたくさんあり、翻訳対応くらいしかしていない店ばかりだからこそ、裏を返せば競合が少ないブルーオーシャンな市場とも言えるのです。